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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)5274号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二(被告会社の責任原因)

(一) <証拠>によると次の事実が認められる。

(1) 本件加害車はもと被告会社の所有であつたところ、昭和四一年一一月被告李がこれを買受け、その際登録上の所有名義を同被告の内妻である松原弘子に変えたが、車体には従前のまま被告会社の商標および電話番号を表示して事故当時に至つたこと。

(2) 被告会社は土木建設工事を主たる目的とし被告厳が中心となり自ら代表取締役となつて昭和三九年七月に設立されたものであるところ、被告李は右設立当初からその従業員となり、約一年の後形式的には従業員たる地位を離れたが、本件事故の前後を通じて同会社の監査役ないし取締役の地位にあつた(ただ昭和四二年四月から同四三年五月までの間は被告会社においてその登記手続を懈怠していたものと窺われる。)ことおよび被告会社の業務には残土運搬がかなり重要な部分を占めるところ、被告李は加害車を購入した後形式的には会社から独立して自ら加害車による残土運搬の仕事を始めたが、被告会社の下請あるいは手伝いとして右仕事に当ることが少なくなかつたこと。

(3) 被告李は被告厳の妻の弟であり、本件事故当時住所地は被告会社および被告厳と同一地番であつた(甲第九号証によれば、かえつて被告李が被告会社から加害車を購入した頃の昭和一一年一一月にその住所に転入したこととなつている。)こと。

(4) 本件事故後の原告との交渉において、被告厳もその渉に当つたことがあり、また被告李は原告に対し連絡方法として被告会社の電話番号を指定し、原告は爾来専らその電話により被告李との連絡をとつていたことおよび原告が被告李を訪ねたところ被告会社事務所に案内され、被告厳夫婦および被告李夫婦が同所に居合わせ、あるいは原告が被告李の所在を被告会社に尋ねたところ被告李は被告会社の仕事の現場に出かけて不在である返答を受けたことがあること。

以上の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

右のとおり、本件加害車は本件事故以前に被告会社から被告李に譲渡され、それと同時に被告李は形式上被告会社とは独立して自ら残土運搬業を始め、その営業会社の下請ないし手伝い仕事のこともありまた独自に他から受注する仕事もあつたものの、その規模は加害車一台をもつて同被告一人で自ら運転に当つてする零細なものにすぎなかつたのである。そして、被告会社と被告李の各事業双互の関係の詳細については、この点に関する被告厳、同李の各本人の供述は後記のとおり措信できず、他にこれを詳らかにする直接の証拠はないのであるけれども前認定の事実を総合して判断するに、被告李はその営業の本拠(事務所)を被告会社と同一にし、そして前認定の如き被告会社代表者被告厳との身分上および仕事上の絆に基づき、営業上被告厳ないし被告会社の援助や指揮監督を受ける一方また被告会社の必要に応じてその仕事を手伝つて便宜を供与する(加害車の車体の表示を被告会社のままにしておくことは、被告李の供述するとおり同被告にとつて便利であるだけでなく、被告会社の便宜に資する所以でもある。)といつた形態において相協力して企業の維持を計つてきたものと推認するのが相当であり、そうすると被告会社は被告李の営業をいわばその一部の如く従属させる形で同被告と事業を協同していたものと評価することのできる関係にあつたものというべきである。

被告李、同厳は当法廷における供述において、ともに右の如き両者の関係を極力否定するのであるけれども被告厳の供述中被告李が独立後は同人がどんな仕事をしていたか知らない旨の部分は、前認定の両者の関係、特に被告李が加害車を購入した頃以降住所を被告厳と同一地番にしていることに照らし容易に信じられないし、本件事故当時の加害車の運転がどこから請負つたいかなる性質の仕事であるかについての被告李の供述は極めて不明確であり(そのため被害者側としてはそのことの真偽をその取引先に当つて調査することも困難なわけである。)、また乙第四号証における説明と当法廷における供述とに喰い違う部分があるなど、その供述に不自然さが目立ち、前認定の諸事実、原告本人尋問の結果(第二回)および弁論の全趣旨(例えば被告側の当法廷への出頭状況)等に照らし、たやすく措信することができない。被告ら間の内部関係が被害者側からは容易に窺い知れないことに乗じての、弁解のための弁解ではないかとの疑問をいだかないわけにはいかないのである。

他に右を左右するに足りる証拠はない。

右のような被告会社と被告李の事業との間に密接な協同関係がある以上、本件事故時の被告李による加害車の運転が具体的に被告会社の業務と直接の関連を有すると否とにかかわらず、被告李がこのような形態の範囲内において加害車を運行している限り、被告会社は被告李と並んで一般的に加害車の運行を支配しうる立場にあり、かつ管理する責務を負うべき立場にあつたと解すべきであり、かかる場合には、被告会社は加害車の運行供用者に当るというべきである。

そして本件事故につき被告李に過失があることは後に認定するとおりであるから、自賠法三条但書の場合にも当らず、被告会社は同条本文により本件事故に基づく原告の損害を賠償すべき義務がある。

三(被告厳の責任原因)

前項に判示のとおり、本件事故当時被告会社は被告李の営業をその一部の如く従属させる形において事業を協同していたものであり、そして前認定の被告会社ないし被告厳と被告李との身分上および仕事の関係に照らし、被告会社は被告李を指揮監督する立場にあつたとみることができる。従つて被告李の事業は自身の事業であると同時に、民法七一五条一項の適用上は被告会社の事業の一部に他ならずそして被告会社は被告李の使用者に当ると解して差支えない。

そして被告厳本人尋問の結果によれば、同被告は被告会社の代表者であるだけでなく、実質上唯一の経営者として、事業の万般を指揮監督していたものであり、被告会社はいわば被告厳の個人会社であることが認められるから、被告李に対する被告会社の指揮監督も、具体的には被告厳によりなされていたものに他ならないこととなる。

よつて被告厳は被告会社に代つて被告李を監督する者に当ると解すべきであり、被告李はその事業の執行に当つて後に認定するとおりの過失により本件事故を惹起したものであるから、被告厳は民法七一五条二項により、本件事故に基づく原告の損害を賠償する責任があるものというべきである。 (浜崎恭生)

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